株式会社チノー様の本社ビルは平成2年(1990)竣工後20年を越え、空調はじめ随所に不具合箇所が出てきましたが、1階ロビーなどは大理石を用いて、いまだにピカピカしています。このビルは施工当時の、最新技術の氷蓄熱方式を採用しており、ブラインチラーにより冷温水を作り、その冷温水をビル全体に配管して送り込み、各々のフロアーの空調機で制御するセントラル空調システムです。
氷蓄熱による深夜電力利用~ピークカットにより、ヒートポンプを用いた優秀省エネルギーシステムとして賞を頂いたビルでもあります。
東京都板橋区に於けるこの5年の夏の気温は、7月上旬と中旬は2011年が大変暑く、7月下旬から9月上旬は2010年が大変暑く、9月中旬から下旬は2012年が大変暑いという状況でした。2009年と2008年は冷夏でした。気温データと、上記電力量を見比べると、はっきりと気温との連関がわかります。ブラインチラーを更新して、その効果が現れた今夏は、この5年間で最も残暑の厳しい夏でした。どうしても冷房を強く働かせないといけない状況でしたが、実際の電力消費量はグラフで明確なように、節電効果がハッキリとデータで出ております。
リニューアル検討は、施主様のご要望のヒアリングから始まりました。空調システムは、コントロールバルブの故障等により不具合が出ていました。また、空調DDC(Direct digital control)システムや中央監視制御システムも、センサ系、コントローラ系、アクチュエータ系、それぞれに不具合箇所があり、何より、中央監視のパソコンが壊れたら、かなりやっかいな事になるのは目に見えていました。
そこで、不具合を直して空調設備の改善・改良等を図り、中央監視制御システムのリニューアルを行うことになりました。実施に当たり基本的考えは、
1. まだ使えるところは使う
2.稼働しながらリニューアルする
3.省エネを図る
4.住人の快適性を向上する
5.徹底的にコスト低減し、安く仕上げる
という難しい課題に挑戦しよう、というものでした。作業の中には、ブライン抜きや解体、熔接などの作業があり、音が出たりする作業もあり、それらは休日や夜間作業とすることになりました。
まず最初に冷温水配管、ブライン配管の劣化検査を行いました。
場所に応じて抜管診断等や、放射線透過検査を実施しました。
結果は腐食もなく良好で配管自体の対策は必要無しと診断されました。
第1ステップとして「熱源改修」
第2ステップとして「各フロア空調改修」
第3ステップとして「中央監視システム交換」
第4ステップとして「屋上ヒートポンプチラーの更新工事」
を行いました。
センサー、調節計、調節機器等はチノー製品を支給して頂き更新しました。
支給品の測温抵抗体はダブルエレメントで交換し、工期中でも現状システムを維持しつつ工事を進めました。
コントロールバルブやブラインポンプも、年数を経て不調部分が出て来ていましたので新規バルブ、ポンプに交換しました。
既存システムの空調制御は各フロアとも北側、南側の2系統だけでした。したがって場所によって温度分布があって、快適性に問題が出ることがありました。
そこで、各フロアのファンコイルの冷温水配管に電動弁を新たに取り付けて、センサーと調節計も増設し、制御系統を増やしてエリアの細分化(5~6エリア)を図ると同時に、電動弁を2位置制御(ON-OFF)から3位置制御に変更し、落ち着いた制御にしました。
2位置制御ですとどうしてもドタバタした制御になりますが、ヒステリシスを持たせて、温度分布の偏りを改善し、きめ細かい設定が出来るようになりました。
※各階空調制御は、機械室に設置されたAHU(エアハンドリングユニット)という本格的な空調機と、フロアの壁際に設置されたFCU(ファンコイルユニット)という簡易な空調機で行われています。
夏場、冬場で人が快適に感じる空気環境は、温度と湿度のバランスです。湿度を制御することを基本にすると省エネになります。夏場は除湿、冬場は加湿がポイントです。空調機のリニューアルとしてまず加湿器を滴下浸透式気化式加湿器に変更しました。
従来はエリミネータ(除滴板)を付けたノズル噴霧式でしたから、長年の使用でノズルにスケール(水垢)が付着し、霧が出なくなります。したがって今ではAHUには気化式加湿器が多く使われます。一言で言えばエア・フィルタに水を含ませて空気を通すものです。したがって乾いた空気がこの膜を通過することによって湿潤空気となりますが、この過程で気化熱によって空気が冷却されます。したがって後段で再熱する必要があります。エネルギーを使わないので究極の省エネ方式であり、空気を清浄化する要素もあって一石二鳥のため、最も多く採用されている方式です。
冬場は湿度が高ければ肌にしっとりして、温度が低くても快適に感じる上に、インフルエンザの増殖なども抑えることができます。
夏場は湿度を低くすると、肌にまとわりつくジメジメ感が無くなりカラッと快適に感じます。しかし、セントラル空調におけるAHU(エアハンドリングユニット)では、冷水による除湿しかできないため、外気が多湿のときなどは、水分を取りきれません。
そこで国の環境指針である冷房期28℃を満足するために、各空調機にブラインコイルを増設し、冷ブラインを利用した除湿機能を加えました。
これによって、不快指数を改善し、冷房期の快適性をグンと向上した空調設備に衣替えしました。このことは1次除湿(露点制御)することで、当然トータル省エネになります。
エアコンを8馬力から15馬力に更新して、ブラインチラーからは切り離し完全に独立運転にしました。これにより夜間のチラー運転停止によりコンピューター室は影響を受けない様になりました。
1Fロビーと6Fが現状の負荷に対して既設空調機の能力が不足していましたので、冷温水コイルを変更し、モーター、プーリーも交換して風量をUPして能力の増強を行いました。
また、換気用の給気と排気のダクトに全熱交換器を取り付けて、外気による浸入熱の負荷を低減し省エネを計りました。
ビルの換気の必要性については、建築基準法と通称「建築衛生法」で定められています。
これが2003年7月の建築基準法改正で、それ以降の新築物件についてはより強化されました。「一人当り20m3/h以上の換気量」と「0.3回/h以上0.7回/h以下」の両方を満たす換気設備の設置が義務付けられました。
建設業界では、目安として"2時間で1回転の換気"と言われております。
また、窓からの日射による建屋内への入射熱量を計算し、空調熱負荷に対する、抑制効果を高めるため、遮熱フィルムを全館南側窓に貼り、省エネ化を実施しました。赤外線カットにより夏の入射熱を90%以上カットし、窓際の温度上昇を5℃以上抑えます。紫外線もカットします。
中央監視、制御にはFAコンピュータを導入し、OSはWindows7、監視ソフト(scada software)はチノーのCISAS V4を使用し、ローカルはPLC計装で構築しました。大変コストパフォーマンスに優れたシステムに仕上がったと自負しております。
1.空調機及びその他計測データーの監視画面
2.各階平面図、温湿度監視画面
3.温湿度設定画面
4.各空調機のスケジュール運転設定画面
5.ヒストリカルトレンド画面
上記の工事を業務に支障をきたさない様に2010年に施工しました。
株式会社チノーの、集録・監視パッケージシステム CISAS/V4は、記録計、ロガー、調節計および市販のPLC(プログラマブルコントローラ)をシステムコンポーネントとし、各種装置・設備など最大5000タグのデータをパソコンで集録・監視するパッケージシステムです。市販ソフトウェアの中でも、息の長いシステムとして、高い評価を頂いております。
次のステップで(2012年4月)、ブラインチラーの更新工事を行いました。
既設のチラーも老朽化しており、修理の部品は製造しておらず、部品の在庫がそろそろ無くなってきていました。既設のブラインチラーは120馬力が2台(240馬力)でしたが、更新は40馬力が4台(160馬力)で設計しました。
80馬力もの削減ですが、窓に遮熱フィルムを貼って負荷を低減させた効果や現状空調熱負荷見直し、ファンコイルユニットとAHU運用見直し、そしてピーク時の氷蓄熱運用見直しにより削減を図りました。
空調要求熱負荷と対応する熱源側の熱量演算により、ブラインチラーの稼働台数を判断して、常に最適運転をするよう、改善を加えました。
また、4台のチラーを分散設置する事で、細かな負荷に対応して無駄な運転を無くし省エネにも寄与しております。更に、新しいチラーはCOP係数もよくなっているので、かなりの省エネ効果を実現しています。
当然ブラインチラーの運転台数が変化するとブラインの流量も変化するので、ブラインポンプをインバーターで制御して流量を調整して対応しています。
「負荷側要求熱量 Q 」と「熱源供給熱量 Qo 」を比較し、Qo ≧ Q ( Qo-Q≧0 )の関係を保持する事を基本とし、最適な「熱源側のヒートポンプチラー台数制限、及びチラーの能力制御を実施。
(但し、万一 Qo ≦ Q の状況が発生した場合、チラーは強制4台運転とする )
チノ-本社ビルの空調改修の結果、住人の満足度がどうか?というところが最も大事です。
暑いとか、寒いという感覚は、個人差がありますので、快適性の評価はPMV(Predicted Mean Vote)という指数によって表現されます。予想平均温冷感申告という、日本語としては違和感ある表現ですが、大多数の人が感じる温冷感の平均値を意味し、言わば多数の住人にアンケートを取って、平均的な快適性の指数としたもので、人体の熱負荷に基づいて解析した理論式で算出されます。温熱6要素(気温・湿度・気流・熱放射・代謝量・着衣量)を考慮して計算されます。
したがって、大多数の人が快適だと思う空気環境でも、一部の人はそう思わない、ということが現実です。
今回のリニューアルによって、快適になりましたか?と各階の住人に聞いて回った結果、お世辞かもしれませんが、良くなったと皆さん仰いました。中にはさすがに温度のチノーだけあって、温湿度計を置いて記録をパソコンで集録していたり、カードロガーを置いてデータ取りしている部署もあり、空調の結果がこのように良くなっていますよ、と教えて頂いて、大いに勇気付けられました。