ザゼンソウ温度制御アルゴリズム


△DB1000 ㈱チノー

株式会社チノーは「ザゼンソウ温度制御アルゴリズム」を搭載した「デジタル指示調節計 DB1000Zシリーズ」を販売しています。DB1000シリーズは、同社のベストセラー調節計であり、発売以来長い歴史をもつコントローラです。
株式会社チノーはザゼンソウ制御をZ制御と呼んでいます。三基計装株式会社は、これを空調制御に使用しております。
プロセス制御における制御アルゴリズムはほとんどPID制御ですが、この調節計ではザゼンソウ型制御アルゴリズムと両方搭載しているため、プロセスに適用して、どちらが良いか試すことができます。制御アルゴリズムは、制御対象によって向き/不向きがあります。たとえばPID制御と言っても、たくさん種類がありますし、PとIとDの定数設定次第で挙動が変わります。

制御は多種多様な方式あり

制御については、『技術情報』の「温度制御について勉強しよう」というページにおいて詳しく解説しています。ところが制御というのは、対象プロセスによって方式がたくさんあるばかりか、制御機器メーカーもプロセスごとに得意/不得意があるのです。
工業プロセスの中で温度制御が圧倒的なシェアを占めるので、温度制御について解説しました。たとえばアクチュエータ、すなわち制御量をプロセスに反映させる操作器も、対象によって選びます。たとえば空気式のダイアフラム弁は瞬間的に反応しますし、電磁弁のようなオンオフ弁も、コイルに通電するかしないかで、かなり素早く動きます。しかし、空調制御で多用される電動弁は、電気モータで駆動しますから開閉に時間がかかります。
断熱性のある(=熱伝導率の低い)空気という物質の温度制御はむだ時間の多いプロセスなので、電動弁のような応答の遅いアクチュエータがむしろ適しているのです。

産学連携で開発して産業応用


△岩手大学・長田 洋教授

岩手大学(農学部附属寒冷バイオフロンティア研究センターの伊藤菊一教授、工学部電気電子・情報システム工学科の長田 洋教授)と株式会社チノー(苅谷嵩夫社長)は、植物の発熱システムに注目し、世界で初めて植物が持つ温度制御アルゴリズムを用いた温度調節計を開発し、株式会社チノーの汎用温度調節計DBシリーズに搭載しました。
開発した調節計は、温度整定時間の短縮や、高いオーバーシュート抑制効果等を発揮し、制御対象により大幅な省エネ効果も期待できます。今や何とかして電力量を落としたい時代ですから、ピッタリの調節計と言えるでしょう。



岩手大学農学部の伊藤菊一教授が1998年にザゼンソウの植物学的な発熱研究を開始し、2004年より岩手大学工学部との農工連携研究として長田 洋教授も加わって、文部科学省の21世紀COEプログラム(2004年~2009年)に採択されて進められました。やがて、2007年より株式会社チノーとの産学連携研究を経て、商品化に至りました。

産学連携のご紹介

この産学連携研究の成果が、 (社)日本科学機器協会(JSIA)のホームページで紹介されております。当ホームページでは、日本科学機器団体連合会・技術委員会・科学機器産学連携研究会が発行する産連研ニューズレター№031号(2012年3月12日)および報告資料について掲載されております。

ザゼンソウとは?


△写真左:サトイモ科特有の仏炎苞と肉穂花序(にく
すいかじょ)、写真右:雪を融かすザゼンソウ

ザゼンソウは、ミズバショウと同じ仲間のサトイモ科の多年草であり、早春に花を咲かせます。
植物でありながら、肉穂花序(にくすいかじょ)と呼ばれる器官で発熱が観察されます。
ザゼンソウには、自身で雌期・両性期・雄期を持つ雌雄異熟(しゆういじゅく)と呼ばれる特徴があり、非常に興味深いことに、雌期における肉穂花序は、氷点下を含む外気温の変動にも このような肉穂花序における温度制御は、1週間程度も持続することが知られており、群生地において、肉穂花序の発熱により周囲の雪を融かしている様子を観察することができます。

花粉を運んでくれるハエをおびき寄せるために悪臭(人間からすると悪臭でも、虫からすれば良い臭いでしょう)を放ちますが、熱を発することで臭いの強さが倍増します。あまりに臭いので、英語ではSkunk Cabbage(臭いキャベツ)と呼ばれています。ミズバショウも同種の植物ですが、発熱性はありません。
(写真は岩手大学農学部附属寒冷バイオフロンティア研究センターのホームページより転載)

ザゼンソウの発熱制御アルゴリズムを解明


△熱画像で肉穂花序が発熱器官であること
がわかる

ザゼンソウが動物でもないのに、どうやって発熱し、どうやって気温を検知し、さらにどういう仕組みで一定の温度を保つべく制御しているのか?これを研究したいと考えた岩手大学農学部の伊藤菊一教授の研究は、独立行政法人・生物系特定産業技術研究推進センターの基礎研究推進事業(2001年~2005年)として採り上げられ、さらに文部科学省の21世紀COEプログラム(2004年~2009年)などの学術的研究として進められました。
研究テーマのひとつ「植物の熱制御システム」は、伊藤菊一教授をリーダーとして、ここに岩手大学工学部電気電子・情報システム工学科長田 洋教授が加わりました。農工連携で、それぞれの専門を生かして成果を出そうと言う企画です。ザゼンソウの熱産生メカニズムがその発熱基質の種類により制御されていることを伊藤教授らが解明し、さらにザゼンソウの体温振動に、ある種の制御機構が存在することが指摘されて、そのアルゴリズムが解明されました。これを実際に応用してみるときに、これは制御工学の分野であるため、工学部の長田 洋教授が担当しました。まさに農工連携の研究です。

ザゼンソウの体温振動データから推定された発熱制御モデルは大変シンプルですが、フィードバック制御機構を備えた頑強な構造であり、植物というリソースの限られた制御系に適したものであると思われました。長田教授とその研究グループは、発熱制御ダイナミクス(熱振動データ)から世界で初めてカオス性(Zazen attractor)を抽出、抽出した振動方程式によりザゼンソウ型制御アルゴリズムを同定しました。
(写真は岩手大学農学部附属寒冷バイオフロンティア研究センターのホームページより転載)

社会に大きなインパクトを与えるザゼンソウ制御

PID制御というのは、目標値と現状値の偏差に比例(P)した操作量、偏差の積分値(I)に対応した操作量、偏差の微分値(D)に対応した操作量、の3つの要素に重み付けした総合値で制御出力を決めますから、人間の活動(目の前の事象への対応に追われながら、経験を生かして判断し、時には変化を先取りして手を打つ)と同じようなところがあって、言わばあくせくして結果を出していくという、原理的に常に働き尽くめの制御方式なのです。笑えませんね(^_^)
これに対してカオスというのは、「混沌」な事象を扱う理論であり、カオス的現象とは、天気や地殻変動、経済や人口増加などの社会現象であり、人間活動で理詰めに行っても制御できないような世界です。どうやらザゼンソウは、PID制御のようにジタバタした制御は行わないのです。
生物から学んだ制御アルゴリズム(ザゼンソウ制御)を搭載した調節計は、地域性のある研究素材に端を発した産学連携研究成果ということに留まらず、生物の繊細な代謝機能を模倣した工業化研究の成功例として、社会に大きなインパクトを与えるものと考えられます。

このザゼンソウ制御は、半導体制御装置(拡散炉・ア二-ル炉)、金属熱処理炉制御装置、恒温恒湿槽・恒温恒湿室制御装置、オートクレーブ(化学反応釜)、空調設備といった分野で、既に省エネ・オーバシュート抑制といった成果をあげており、今後、用途と適用分野を広げ、省エネ効果に貢献できる商品として、世の中にご紹介して行くとのことです。

ザゼンソウ制御の特長

ザゼンソウの発熱機構の制御アルゴリズムは、生命現象の解析によって得られた情報に基づいたものです。ザゼンソウ制御は、従来の制御アルゴリズムで動作する調節計に比べて、制御量(現在値)を“無駄なく迅速に”設定値に到達させることができ、「高いロバスト性(堅牢性)」と「高い省エネルギー特性」を両立させたこれまでにない優れた制御性能を発揮します。

オーバーシュート抑制


△㈱チノーのニュースリリースより

汎用的に用いられているPIDと呼ばれる制御では、操作対象により設定した目標値になかなか到達しない、設定より高くなる(オーバーシュート)などの問題があり、安定するまでの時間(整定時間)が長くなる場合には、これを補うために様々な補償アルゴリズムが追加されています。
ザゼンソウ制御では、制御量の変化から“その到達値を予測”して制御を行い、最適な操作量を出力するアルゴリズムであるため、整定時間を保ちつつオーバーシュートを発生し難い、という大きな特長を持っています。

外乱抑制


△㈱チノーのニュースリリースより

暖房空調されている空間のドア開閉時のように、“外乱”とよばれる急激な温度の変化がある場合、従来制御では、早く復帰させようと過度に出力するため、かえって制御が乱れてしまう場合があります。
ザゼンソウ制御の方式では、復帰後に温度が設定値を超えるかどうかを予測して制御を行うため、過度な出力を行なわず、安定した制御が可能になります。右図をご覧下さい。PID制御では外乱による影響を打ち消そうとMV(操作量)が出るため、制御結果はハンチングして収束しますが、ザゼンソウ制御では外乱による温度変化は出ますが、MVはわずかで、すーっと収束しています。

省エネ

ザゼンソウ制御は制御対象の熱的特性を捕らえて、それぞれに適した操作量を出力します。このため、無駄なエネルギーの投入が避けられ、たとえば加熱/冷却と加湿/除湿機能を併有する恒温恒湿槽の場合には、高い省エネルギー特性が期待できます。ある制御結果では3割省エネになったという実績もあります。モノは試しです

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是非お試しください

ザゼンソウ制御はこれからの時代にピッタリの制御と述べましたが、実際に恒温恒湿室やインキュベータの制御データを我々は持っています。ご興味のある方はお問い合わせ下さい。
PID制御とザゼンソウ制御のどちらがどうという問題ではなく、これらの制御結果からわかることは、PID制御が定周期で常に偏差からPID演算してMVを出力するのに対して、ザゼンソウ制御は、「予測」して、少ないMVをどういう周期で出していくかを決めているようです。生物が持つ神秘性とも言えますが、必要な分をなるべく疲れないように出して調節するのでしょう。外乱への一発収束応答など、見事なものです。
制御には、エネルギーを消費してでも精密性を要求するものや、追随性最優先など各種の要求があります。ただ、一番要求の強いのが省エネであろうと思われます。その意味でザゼンソウ制御が、ニーズに適合してお客様から喜ばれるケースがこれから多く出てくることでしょう。是非貴社のプロセスにもお試し下さい。